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No.02


“Nami”
 18歳の夏、親友の家で私たちは出逢いました。 彼女(彼?)はグリーンのタータンチェックのケースに入り、 タンスの上で静かに眠っていました。「ねえ、もしかして、あれギター? 誰も弾いていないの?欲しい!」…私。「いいよ。」…親友、即答。 そんな訳で、8年間の長い眠りから覚めた彼女は、私の元へやって来たのです。
「全ての出逢いは必然である」と誰かが言っていましたが、 まさに私はその頃ボサ・ノヴァに夢中で、 「ナイロン弦のギター欲しい」と願ってやまなかったのです。 かくして始まった、歌とギターの日々、最初に覚えたのは、 やはりあの名曲「イパネマの娘」でした。カセットテープがちぎれて、 ラジカセが壊れるほどジョアン・ジルベルトのギターを聞いて、音を拾いました。 18歳の情熱はスバラシイ。
 そんな風にして覚えたギターは、かなりぎこちなくユニークなフォームですが、 それがそのまま私のスタイルになってしまいました。 今はライブやレコーディングで使いやすい二代目のナイロン弦ギターを弾いていますが、 親友の名前をもらって“Nami”と名付けたこのギターと過ごした青春よ! また調整してもらって弾こう。


シアワセなギター
 もう少しギターのお話を。 今メインで弾いているギター(Matildaと申します)も、 私のところにやって来て、かれこれ8年ほど経ちました。一度事故に遭い、 穴が開いてしまったところに調度良い(?)具合にアームレストを付けてもらい、 一命をとりとめました。まさに怪我の功名と言うべきか、その、 てるてる坊主の形をしたアームレストがとてもシックリとなじんで気に入っています。 家は仕事柄いろいろなギターと出逢う機会があるのですが、 良く弾かれているギターは、やはりシアワセそうです。
 シアワセなギターで思い浮かぶのが、 フランス映画「黒いオルフェ」で主人公オルフェが持っていたギターです。 その古いギターには「オルフェ、私の主人」と書かれていて、 時には質草になったりするのですが、とても愛されていて、 今でもどこかのオルフェさんが弾いているのではないかしら、 なんて気がしてしまうほどです。オルフェが「ギターで太陽を昇らせる」シーンはステキでした。
 もう一つ、思わず微笑んでしまうシアワセなギターが、 ブラジルの大シンガーソングライター、ミルトン・ナシメントのおんぼろギターです。 いつ弦を替えたのかしら、と心配になるような渋い音色と、あの声とが相まって、 えもいわれぬサウダージを誘うのです。
 Matildaもあちこちぶつけられ、ツギハギはしていますが、まあ、 シアワセなほうではないかしら。






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